作品概要とタイトルの意味
ボディ・ホラーに分類される作品でしょうか。
『タナトモルフォーゼ(原題)/Thanatomorphose』という映画を鑑賞しました。
Thanatomorphose はフランス語で、
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Thanato-(タナト):ギリシャ神話の死の神タナトスに由来する「死」を意味する接頭辞
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-morphose(モルフォーゼ):「変身・変容・形態の変化」
この2つが合わさり、「死によって引き起こされる、生物の目に見える腐敗・分解の兆候」を意味する言葉だそうです。
監督はエリック・ファラルドー。2012年制作のカナダ映画です。
登場人物
物語に登場する人物はほぼ3人のみです。(カタカナ読みは私が勝手に付けました)
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主人公の女性 ローラ(Laura)
演:ケイデン・ローズ(Kayden Rose) -
ローラの恋人 アントワン(Antoine)
演:ダヴィッド・トゥシニャン(Davyd Tousignant) -
ローラの友人 ジュリアン(Julian)
演:エミール・ボードリー(Émile Beaudry)
登場人物の少なさも、この作品の特徴のひとつです。
舞台設定と物語の流れ
舞台はほぼ、ローラの自室であるアパートの一室のみ。
彫刻家を目指しているローラは、ある日、自分の右肩付近に奇妙なアザがあるのを見つけます。
そのアザは急速に全身へと広がり、
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爪が剥がれる
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髪が抜け落ちる
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指がもげる
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耳がもげる
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肉が腐敗し始め、蛆が湧く
という、凄惨な変化が次々と起こります。
しかし、身体が腐敗していきながらも、ローラは生き続けます。
さらに彼女は医者にも行かず、部屋に引きこもり続け、
冷静というか、状況に対してあまりに無反応なまま日々を過ごしていきます。
この異様な淡々さも、本作の強烈な違和感の一因です。
理由なき腐敗と不自然さ
ローラの身体が腐敗する理由は、作中では一切説明されません。
肉体に重度の腐敗が進行しているにもかかわらず、なぜ敗血症で死なないのかも不明です。
観ていて、「一体どうなっているんだ?」と強く気になりました。
なんとなく、
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劇症型溶血性レンサ球菌感染症
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あるいは、昔の人が想像した末期のハンセン病患者
のようにも見えなくはありません。
とにかく外見は凄まじい状態なのですが、それでもローラは死なず、生存し続けます。
筋肉が腐敗して脆くなっているはずなのに、普通に動ける。
崩れてもげかけた腕を縫い合わせたり、ダクトテープで固定すると、普通に機能します。
また、肉体関係のある恋人アントワンに感染する様子もありません。
細胞の生理的機能である アポトーシス が、突然バグって ネクローシス に置き換わったかのような、不自然な世界観です。
特殊メイクと演出について
全体的によく出来ており、芸術的な作品とも言えますが、正直なところ突っ込みどころは多いです。
おそらく監督は、
「内部から女性が腐っていくだけの映画を撮りたかった」
のでしょう。その結果、こういう構造になったのだと思います。
登場人物が少なく、物語も終始アパートの一室で展開する低予算映画ですが、肉体が崩壊していく特殊メイクのクオリティは非常に高いです。
極めてグロテスクな描写が延々と続きます。
後半、ローラがもげ落ちた自分の指や耳を瓶詰めにしてコレクションするシーンがありますが、これはデヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ/The Fly』(アメリカ/1986)で、主人公セス・ブランドルが、肉体の変貌で同様にもげ落ちた、歯や耳を棚にコレクションしていた場面へのオマージュではないかと感じました。
類似作品との比較と解釈
作品的には、
『スリーデイズ・ボディ 彼女がゾンビになるまでの3日間/Contracted』(アメリカ/2013)
と共通点が多いようにも思えます。
いずれも「生きながら肉体が死んでいく、芸術家志望の女性」が主人公です。
ただし、スリーデイズ・ボディの主人公サマンサが、自身の変貌に恐怖し動揺するのに対し、本作のローラは、比較的冷静に自分の身体の変化を受け入れています。
この矛盾を解釈するなら、腐敗が脳に及び、思考異常を起こし、人間らしい感情を失っていたと考えるのが自然かもしれません。
ローラは、
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恋人アントワンをハンマーで殴り殺し
心配して病院へ連れて行こうとした友人ジュリアンを包丁で刺殺します。
これらの異常行動も、脳の腐敗による思考障害と考えれば、作中では一応の整合性が取れます。
天井のカビと象徴性
ちなみに、ジャケットに使われている絵は、壁紙が剥がれた天井の一部です。
この天井は、ローラの身体の腐敗と連動するかのように、どんどんカビが広がり、腐敗していきます。
単なる演出なのか、何か象徴的な意味があるのかは不明ですが、意味深な描写ではあります。
ラストシーンについて
作品のラストは、ローラの完全な分解で幕を閉じます。
個人的には、この終わり方が、TAITOのアーケードゲーム 『ニンジャウォーリアーズ』のラストを連想させました。
このラストシーンは、映画全体の中でも特に気合を入れて作り込まれており、最大の見どころと言っていいでしょう。
総評と鑑賞環境
本作は国内版がリリースされていないため、鑑賞する場合は輸入盤のみとなります。
セリフが非常に少ない映画なので、字幕がなくても雰囲気で理解できる、珍しいタイプの作品です。
強烈なボディ・ホラー表現に耐性がある方であれば、一度は観ておいても損はない一本だと思います。
鑑賞後に振り返って、あのシーンは何だったんだろうと、いろいろ考えさせられる映画です。
まとめ
よく出来た作品で、かなり集中して画面に見入っていました。
低予算ながら、「悪い・普通・良い」で分別するなら、「良い」に入る作品でした。
点数付けるのは苦手なので、ふわっとした感じで評価しました。
