原作はH・P・ラブクラフト『名状しがたいもの/The Unnamable』
過去パートで、老魔術師が自分の娘に対して何らかの魔術を使った結果、娘に名状しがたいものが取り憑く。
老魔術師は娘に殺され、そして屋敷の前に埋葬されます。
その後、時間は流れて現代に。
ミスカトニック大学にて、学生でありオカルトへの造詣が深いランドルフ・カーターが、友人のハワード、ジョエルに老魔術師の館の話をする。
オカルトに対して否定的なジョエルは真実の確認のために一人で館に乗り込み、帰らぬ人となる。
それとは別に、ハワードが気にしている女生徒(ヒロインと思いきや違った)ウェンディが、友人と一緒にナンパ目的の男性生徒の誘いに乗り、屋敷へ行ってしまいます。
当然、禁忌の地に自ら踏み込む愚者は、怪物に次々と殺されていきます。
そして、ランドルフ・カーターとハワードもその館を訪れます。
大まかにはそんな話です。
原作(原文)は英語版のWikisourceで読めます。
原作にもカーターは出るが、名がランドルフなのかは不明
ランドルフ・カーターといえばクトゥルフ神話では、特にドリームランド絡みで「銀の鍵の人」として有名なビッグネームです。
ランドルフ・カーターが登場するだけで、好きな人ならもう、ワクワク・ドキドキが止まりません。
この映画に登場するランドルフはカーター姓になっていますが、原作でのカーターの名または姓は不明なので、『名状しがたいもの』に登場するカーターがランドルフ・カーターと同一人物かどうかは不明です。
しかし原作では、『銀の鍵』で『名状しがたいもの』の舞台となった古い屋敷と、その事件自体を具体的に指し示す描写が含まれているため、同一人物である可能性は非常に高いです。
そのことから、映画ではわかりやすくランドルフ・カーターとフルネームを出したのだと思われます。
ちなみに、映画にドリームランド関連は全く登場しません。
名状しがたきもの(原作)
原作における怪物の描写は、単なる不定形の「ゼラチン状スライム」であるだけでなく、「形が定まらないが、かつて人間だった名残がある」という極めておぞましいものです。
"It was everywhere—a gelatin—a slime—yet it had shapes, a thousand shapes of horror beyond all memory. There were eyes—and a blemish."
(著作権切れにつき原文のセリフを一部引用)
(日本語適当訳:それは偏在した……ゼラチン状のスライム……なのに形があった。あらゆる記憶を超えた、千もの恐怖の形状。数多の目があり……そして、あの「あざ」があった。)
この「あざ」というのは、カーターが事前に調べていた古文書や日記に、17世紀に「片目に『あざ』のある怪物のような赤子」が生まれたという記録があることに由来します。
それによって、襲ってきた怪物が、その「赤ん坊」の成れの果てであることが示唆されるわけです。
一方で、カーター自身の体には「割れた蹄」の跡が残っていました。
原作の怪物は、ある時は蹄を持つ獣のような物理的形態をとり、ある時はゼラチン状スライムめいた不定形であり、まさに「名づけようのない(Unnamable)」存在として描写されています。
名状しがたきもの(映画)
映画では、怪物のスライム形状は登場せず、羽の生えたサチュロスのような悪魔的な姿のみが描かれ、蹄を持つ脚だけが原作を踏襲しています。
そして、この怪物の脚の蹄だけしか映らないシーンでは、それがシュブ=ニグラス(本体ではなく)の奉仕種族である「黒い仔山羊」をどこか想起させます。
また怪物の全身像は、ラヴクラフトが傾倒していたアーサー・マッケンの「パンの大神」的な造形をモデルとしているのではないかと感じました。
制作陣の原作ファンを楽しませようとする意気込みは、たしかに感じられます。
もちろんネクロノミコンも登場する
廃屋敷の中には、クトゥルフ神話といえばこれ、という魔術書、狂えるアラビア人アブドゥル・アルハザードのネクロノミコン(死霊秘法)が登場します。原版、アル・アジフ(Al Azif)でしょうか?
どちらにしろ、この本が出てくるとクトゥルフ神話感がマシマシです。サイズ的には結構な大判でした。
持って読むには、かなり重そうです。
この映画には続編もある
一作目の人気が高かったのか、この映画には続編が存在します。
ただし、邦題で『ヘルダミアン2』として存在する作品は、まったく続編でもなんでもない別の映画です。
一見、別作品に見える『ダークビヨンド死霊大戦/The Unnamable II』が正式な続編なので、お間違えなく。
ラヴクラフト映像化作品としては結構良かった
個人的には、怪物の造形が原作の不定形さを捨てて「見せる怪物」、あるいは制作者側にとって「画として撮りやすい造形」になった点は賛否が分かれそうですが、80年代ホラーとして割り切れば、これはこれで楽しい解釈だと思いました。
クトゥルフ神話系の映像化作品というだけで自分の中では評価が高くなりがちですが、この映画は普通に面白かったので、「悪い・普通・良い」の中では「良い」評価です。
